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サラ・ブラウン 「情報弱者」になりがちな外国人に英訳提供を [通信原稿]

1 はじめに

 26年度に約28万4千人の外国人観光客が熊本県を訪ねた。そして平成27年度の国勢調査によると、熊本県に住む外国人は10,767人(人口の約0.6%)である。そのうち、私が所属しているJETプログラム(総務省、外務省、と文部省が共に管理する「語学指導等を行う外国青年招致事業」の略)は133人という少人数であるが、結びつきが強いコミュニティーなので日常的に情報交換や問題解決をSNSで行っている。

 私は平成22年から熊本県立菊池高校に外国語指導助手として長く勤務し、日本語能力を磨く機会を多く与えられてきた。例えば、車の購入や携帯の契約内容変更、さらには病院での診察に付き添うなど翻訳・通訳の依頼に多く応えてきた。しかし、たいていのJET参加者はこれほど長く日本に滞在していないため、日本語に慣れていない者が多い。

 彼らと同じように、日本語を使いこなせない在留外国人は、知り合いやボランティアに色々頼まなければいけない時がある。そんな外国人が、非常時に庁や市役所などの公の側からのサポートを期待することは、不当な要求だろうか。年におよそ29万人の外国人が熊本を訪れるのだから、災害発生時の情報の多言語化は最低限必要であるはずだ。
 在留資格(ビザ)の所有者は市町村に転入する際、日本人と同じ手続きをする他に在留カードを市町村長に発行してもらうことも必要である。従って、各自治体は在留外国人の人数と母国語を把握しているにもかかわらず、必要な情報を用意する義務を怠っていると思われる。在留カードを発行するのと同時に、パンフレットを渡す程度はできるはずだ。

 日本の経済と地方の活性化に貢献している外国人に、生活面で必要な情報をやさしい日本語でも提供しない自治体であるため、言うまでもなく各地の祭りなどのイベント情報も入手不可能である。
 そこで、熊本県をもっと知りたい・もっと楽しみたい日本語に不慣れな外国人のため、熊本学園大学の講師であるアメリカ人2人が2011年にKumamoto-I(クマモトインターナショナル)のFacebookページを立ち上げた。そして、SNSの特徴である拡散性を利用し、熊本県に関する情報発信を始めた。普段JET参加者に英訳を提供してきた私が、Kumamoto-Iの管理者にページのことを紹介されて「編集者になってくれん?」というオファーを頂き、編集者になったのは4月14日の前震の2週間前である。そして、初めて投稿したのが地震の直後であった。

2 地震前後の行動

 たまたま4月14日に私用で福岡アメリカ領事館を訪問したのだが、その際突然スタッフに声をかけられ、非常時に連絡を取れる熊本の代表になるよう依頼された。引き受けて熊本に帰ると、その夜9時46分頃一回目の地震が発生した。早速領事館から電話があり、アメリカ人の安否確認に協力してほしいとのことだった。熊本に住むアメリカ人は300人ぐらいしかいないが、会ったことがない人のほうが多いのであらゆるネットワークを使用し、なんとかケガ人や助けの必要な人はいないと伝えることができた。16日の早朝も安否確認を頼まれた。それから19日まで領事館のスタッフに熊本とアメリカ人の状況を毎日伝え続けた。
 
 避難所がどこにあるのか、何を持っていけば良いのかわからない人がいるだろうと思い、熊本在住のJET参加者が利用するFacebookグループにその情報を投稿した。さらに、Kumamoto-Iのメンバーにその情報を必要とする人がいるかもしれないと考えてKumamoto-Iのページにも載せた。
 その後、Kumamoto-Iに県内外と国内外の人々からたくさんのメッセージが届きはじめた。「熊本に物資届けたいけどどんな道で行けばいいですか」や「私の親戚は○○市の○区に住んでますが、連絡とってもらえますか」や「ゴールデンウィークは熊本城と黒川温泉に行く予定だけど、まだ行けると思う?電車とか大丈夫と思う?」など、メッセージの内容は様々だった。
 一番記憶に残った質問は16日の昼ごろにきた。来日したばかりの若いアメリカ人の母親からのもので、「私の息子が14日の夕方に成田空港に到着したはずだが、連絡がとれない。息子は大丈夫なの?」という内容だった。行き先は熊本ですかと尋ねたら、「分からない」と。確かに日本はアメリカに比べてとても狭い国だけども、14日の夕方から16日の早朝の間に成田から熊本まで来たとは考えにくいのでは・・・と答えると、その母親は少し安心したようだった。

 私が住む菊池市は幸いなことに殆ど被害がなく、16日の朝9時頃から電気なども復旧されたが、Kumamoto-Iの他の編集者や管理者は避難所で待機していたので投稿はほぼ1人ですることになった。
 まず、私は菊池高校に行って職員の安否確認を手伝った。午後5時まで事務長先生と一緒に事務室に待機し、NHKのニュースをみながら携帯で最新情報を集めて英訳を発信し続けた。
 交通機関の復旧、携帯会社による無料WiFiと充電できる場所、指定と個人提供の給水所、炊き出しの場所、開いている病院、おむつや粉ミルクがもらえる場所、多言語対応可能な避難所や電話による無料通訳センター、とにかく外国人のコミュニティーに役立ちそうなものを英訳してKumamoto-IとJETのグループ両方に載せた。さらに、メッセージに対応しながら情報をさがし集めて英訳して発信した。

 18日月曜日から23日木曜日まで休校だったため、その時間を使って活動を続けた。そして、19日水曜日、福岡領事館から電話があったが、今回の内容は依頼ではなくお知らせだった。ケネディ大使が熊本を訪問されることが決まり、私に感謝状を贈りたいとのことだった。

3 現在(5月末)の状況と今後の展望
 
 今はだいぶ落ち着いてきて、投稿の内容がボランティアや復旧の話に変わってきた。1日のメッセージの数も減ってきている。
 感謝状をいただいたことがニュースになったお陰で、ある自治体が在熊外国人へのサポートを強化することに目を向けはじめたようである。
 観光客を呼ぶなら、在留外国人に税金を払ってもらうなら、災害で命を失わないようにきちんと責任をもって対応をしてほしい。例えば非常時にリアルタイムで英訳を出すことが難しいことであっても、普段から日本語も英語もできるボランティアに声をかけてパンフレットを作成したり、ホームページに載せる情報を易しい日本語で書いたり、振り仮名を付けたりすることはできるだろう。しかし、今回のことを受けて、今後は少しずつでも非常時に必要となる情報の多言語化がなされることを期待している。

タグ:熊本地震
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